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■チョコレート摂取量が多い国ほどノーベル賞受賞者も多い
国民1人当たり年間400g多く食べればノーベル賞1人、統計学的に“有意な”関係をユーモア交え報告
大西 淳子=医学ジャーナリスト
欧米を中心とした世界22カ国の国民1人当たりのチョコレート摂取量と、人口1000万人当たりのノーベル賞受賞者数には強力な関係があることが、米Columbia大学のFranz H. Messerli氏の研究で分かった。今年のノー
ベル賞受賞者決定を受けて、2012年10月10日付のNEJM誌電子版にOCCASIONAL NOTESとして掲載されたこの報告は、ユーモアとウィットを交えつつ、統計学的分析結果の解釈には慎重さが求められることを、改めて訴えかけるものとなっている。
著者のMesserli氏はスイス出身。2009年に独高血圧学会のFranz-Gross-Science
Prizeを受賞、2010年には米高血圧学会のWilliam Harvey賞にノミネートされた、高血圧分野では著名な研究者だ。
食品からのフラボノイド摂取は認知機能を改善するという報告がある。特に、定期的なフラボノイドの摂取は、認知症リスクの低減、特定の認知機能検査のスコアの改善、軽度認知機能障害を呈する高齢者の認知機能の向上と関連づけられている。フラボノイドの一種であるフラバノールは、ココア、緑茶、赤ワイン、一部の果物などに広く含まれており、加齢による認知機能の低下を遅らせる、または改善する可能性があると考えられている。さらに、フラバノールは血管内皮の機能を高め、血圧を下げる効果も持つことが示されている。
したがって、フラバノールを豊富に含むチョコレートの摂取は、個人の認知機能を改善すると考えられ、これにより集団全体の認知機能も向上する可能性がある。そこで著者は、国レベルのチョコレート摂取量と国民の認知機能の間に関係があるかどうかを調べようと考えた。しかし、各国の国民全体の認知機能を示したデータは公表されていない。そこで、ノーベル賞受賞者の総数を国民100万人当たりの数で示せば、優れた認知機能を持つ人々が国民に占める割合の代替エンドポイントになり、国民全体の認知機能をある程度反映するのではないかと考えた。
22カ国の人口1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数(2011年10月10日判明分まで)は、Wikipediaの「List of countries by Nobel laureates per capita」から得た。
これらの国の人口1人当たりのチョコレート摂取量は、スイスのウェブサイトであるChocosuisse、ドイツのサイトのTheobroma-cacao、欧州チョコレート・ビスケット・菓子工業協会であるCaobiscoのウェブサイトに掲載されていたデータから最新の数値を得た。
国民1人当たりのチョコレートの摂取量と、人口1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数の間には、有意で強い線形相関が見られた(相関係数r=0.791、P<0.0001)。外れ値となるスウェーデンを除くと、相関係数r=0.862になった。
国民1人当たりのチョコレート摂取量と、人口1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数がどちらも最高になったのは、スイスだった。
得られた相関関係に基づいて推算すると、国民1人当たり年間0.4kg余分にチョコレートを食べれば、ノーベル賞受賞者が1人増えると予想された。これを米国に当てはめると、国民のチョコレート総摂取量が現在より年間1億2500万kg増えれば、ノーベル賞受賞者が新たに1人現れることになる。最小有効摂取量は約2kg/年だった。用量反応関係を見たところ、スイス国民の2011年のチョコレート摂取量である11kgを超えても、摂取量に応じたノーベル賞受賞者数の増加が期待できることが示唆された。
なお、スウェーデンのデータを外れ値とした理由は、国民のチョコレート摂取量から予測されるノーベル賞受賞者数の2倍近くの受賞者を輩出しているからだ。著者は、考えられる理由として、ストックホルムのノーベル賞委員会が選考に際して愛国心を発揮している可能性や、スウェーデン人のチョコレート感受性が非常に高く、わずかな量でも認知機能の向上が得られる可能性などを挙げている。
国民のチョコレート摂取量と人口1000万人当たりのノーベル賞受賞者数の間に驚くべき強力な関係が見られたが、因果関係が示されたわけではない。だが、用量反応関係が見られたことから、チョコレートの摂取がノーベル賞受賞に必要な基盤を作っている可能性はある、と著者は述べている。一方で、国民の認知機能が高いとフラボノイドの健康に対する利益に注目が集まりやすく、これによりチョコレートの摂取量は増え、並行してノーベル賞受賞者の数も多い可能性もある。因果関係の有無を明らかにするためには、無作為化試験が必要だ。
この研究にはいくつか限界がある。例えば、ノーベル賞受賞者の過去と現在のチョコレート摂取量は不明であるし、国民のチョコレート摂取量とノーベル賞受賞者の数は年ごとに変動する。
スイス出身の著者は、ダークチョコレートを日常的に摂取している。今回の報告では、同氏の累積チョコレート摂取量と将来的なノーベル賞受賞確率に関する考察はなされていない。
原題は「Chocolate Consumption,Cognitive Function,and Nobel Laureates」、概要は、NEJM誌のWebサイトで閲覧できる。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMon1211064
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21世紀健康館 牧野